Jordan Surveyors の Facebook に投稿された M. Muhammand Abu Al Ainin さんの所見を私なりに解釈して整理したところ、次の通り。
- ヨルダンの公共座標には Cassini, JTM, UTM がある。UTM では、グローバルのWGS84の実現とは30cm-70cmの差異があるヨルダンのWGS84の実現を使用している。
- このため、グローバルのWGS84からJTMに直接変換すると、正しい結果が得られない。
- CassiniからヨルダンのWGS84への変換は、各地域に固有の7パラメータを用いて行う。
- ヨルダンの高精度衛星測位はヨルダンのWGS84座標を与える。ただし、Trimble VRSのみは、グローバルのWGS84座標を提供するモードを持っている。
- 国際プロジェクトで作業を行う場合、グローバルのWGS84座標を用いる基地局を設置するか、グローバルのWGS84座標を与えるネットワークを用いる必要がある。
- Dr. Omar Al-Bayari や Global Mapper のような変換プログラムでは、ヨルダンのWGS84を考慮しないので、完全に正確な結果を得ることはできない。
- 現在最適な方法は、「RTKデバイスを使用し、正確なパラメータを入力して現場ゾーンで運用すること」である。
- RTX補正やATLAS補正はグローバルのWGS84座標を提供しているため、「ゾーン設定」が必要である。
- これらの課題が解決するには、CassiniからJTMへの変換プロジェクトが完了し、グローバルWGS84がリンクされる必要がある。
- グローバルのWGS84の実現とは30cm-70cmの差異があるヨルダンのWGS84の実現が発生した経緯には何が考えられるか。
- JTMとUTMは何が違うのか。同じなのではないか。特に、測地基準座標系がヨルダンのWGS84に統一されているのか、JTMとUTMで準拠する測地基準座標系が異なる場合があるのか、理解したい。同じなのであれば、単に投影法の違いだけということになるか。
- ゾーン設定とは何か。具体的にはRTKデバイスをどのように操作することになるか。正確なパラメータはどのように入手するのか。誰がその正確なパラメータを作り、維持管理しているのか。
- Dr. Omar Al-Bayari や Global Mapper のような変換プログラムについて概要を説明してほしい。
- RTX補正やATLAS補正について概要を説明してほしい。
- グローバルWGS84がリンクされるとは、ヨルダンの測地成果のそれぞれにグローバルWGS84の座標を付与するということで正しいか。
- グローバルWGS84をITRFと読み替えても差し支えないか。
いただいたインプットを踏まえた実務者向けの整理です。質問ごとに回答します。
- 国家実現(ローカル実現)の採用
- 既存の測地基準網(三角点・水準点)とGNSS成果を整合させるため、ある時点の「WGS84に整合させた国家実現(Jordan WGS84)」を定義・固定することが多い。これが公共測量や国内CORS/RTN(VRS 等)の基準になる。
- 時間(エポック)の固定と地殻変動
- 近年のグローバルWGS84はITRF/IGSフレームに準拠し、プレート運動により座標は年に数cm変化する。国家実現が過去エポックで「凍結」されていると、年数とともに相対差が累積し、十数年で数十cm規模の差になり得る。
- 実現(フレーム)の違い
- WGS84(Gxxx) 実現(G873, G1150, G1674, G1762 等)は各時代のITRFに密着。これと異なるエポック・フレームで国家実現が整備されると、平行移動・回転・スケール(7パラメータ)差が残る。
- 既存網への整合のための調整
- 旧測地系(Cassini 等)との整合を優先し、地域別に異なる7パラメータを採用すると、全国一律ではなくゾーン別に差が生じる。
- 観測・処理モデルの差
- 衛星暦、地球潮汐、アンテナ位相中心、荷重補正、ネットワーク平差の方針などの違いも数cm~decimeter級の差に寄与。
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共通点
- どちらも横メルカトル(Transverse Mercator, TM)投影を用いる。
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相違点(「同じ」ではない)
- UTMは全球を6度幅ゾーンに区分し、縮尺係数は一律 0.9996、ゾーン中央経線・偽東北距が規定される。
- JTMはヨルダン国内の利用に最適化したTMで、独自の中央経線・縮尺係数・偽座標が定義されている。これにより国土全域での歪み最小化や、UTMゾーン境界問題の回避を図る。
- 結果として、同じ点でも「UTM」と「JTM」では平面直角座標が変わる。
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測地基準(地理座標のフレーム)
- 投影前段の地理座標が「グローバルWGS84(ITRF整合)」なのか「ヨルダンのWGS84実現」なのかで、同じ投影(UTM/JTM)でも結果が変わる。
- 実務では「JTM on Jordan WGS84(国家実現)」や「UTM on Jordan WGS84」といった組合せ、国際案件では「UTM on Global WGS84(ITRF整合)」が用いられることがある。
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まとめ
- JTMとUTMの違いは「投影定数」だけでは不十分。前段の測地基準(どのWGS84実現・どのエポックか)まで一致させないと、数十cm以上のズレが出る。
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ゾーン設定の意味
- ここでの「ゾーン」は、地域ごとに定義された7パラメータ(Helmert変換:ΔX, ΔY, ΔZ, Rx, Ry, Rz, scale)や格子補正(NTv2 等)の選択を指すことが多い。歴史的な測地網やCassiniからの移行事情により、県・ブロック単位でパラメータが異なる場合がある。
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RTK受信機の一般的手順
- 測地基準(Datum)の選択
- 国際案件/PPP(RTX/ATLAS)利用時: Global WGS84/ITRF(機器が提供する実現・エポック)を選択。
- 国内公共案件/ローカル網準拠: Jordan WGS84(国家実現)を選択。機器に無い場合は「ユーザ定義Datum」で7パラメータを登録。
- 投影の設定
- JTM または UTM(該当ゾーン)を選択。JTMは中央経線・縮尺・偽座標を公式どおりに設定。
- ゾーン(地域)専用パラメータの適用
- 現場ゾーンの7パラ(または格子)をプロファイルとして登録・選択。
- 現場校正(Site Calibration)の実施(必要に応じて)
- 既知点観測により、その場のローカル変換を推定し微調整。ただし公共座標への厳密トレースでは、公式パラメータの適用を優先。
- 測地基準(Datum)の選択
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パラメータの入手先・維持管理
- 公的機関:Department of Lands and Survey(DLS)、Royal Jordanian Geographic Centre(RJGC)等が基準網・変換パラメータ(または格子)と関連文書を整備・管理するのが一般的。
- GNSSネットワーク運用者:国内VRS/RTN(例:Trimble VRS)運用者が推奨パラメータやエポック情報を提供する場合がある。
- 実地検証:公式資料に加え、既知点での観測により残差確認、必要に応じて現場校正を併用。
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Dr. Omar Al-Bayari 氏のツール(一般像)
- ヨルダン国内の実務を想定した Cassini/JTM/UTM 相互変換支援ツール(アプリ/スプレッドシート等)が用いられていると理解される。地域別7パラメータに対応するものもあるが、「グローバルWGS84とJordan WGS84実現の差」や「エポック差」を十分に扱わない設定では数十cmの残差が生じ得る。
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Global Mapper
- 多数のCRS/投影/変換に対応する汎用GIS。標準ではEPSGや一般的なWGS84(ITRF整合)を前提にするため、国別ローカル実現・地域別7パラ・格子補正を明示的に組み込まない限り完全一致は難しい。Jordan専用のDatum(7パラ)やNTv2格子を導入・選択すれば高精度化が可能。
- Trimble RTX、Hemisphere Atlas などのPPP系精密補正サービス
- 基地局不要で、衛星・インターネット経由の精密軌道/クロック等を用いて高精度位置を提供。
- 出力フレームは実質的にITRF/IGS系(近年のWGS84実現と数cmで整合)。装置側の表記は「WGS84(Gxxxx)」「IGS14/ITRF2014/2020」などの場合がある。
- 利点:世界どこでも安定した精度(数cm〜数dm)。欠点:ローカル実現(Jordan WGS84)にはそのままでは合わないため、「ゾーン設定(地域別7パラ/格子)」や現場校正が必須。
- エポックの扱い:観測日のエポックで座標が出力されることが多く、静的な国家実現へ写像する際は速度モデルや固定エポックの取り扱いに注意。
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実務的には次のような整備を指すことが多い:
- 全国の基準点(測地成果点)それぞれに、最新のグローバルフレーム(ITRF/IGS整合)での座標・エポック(および速度)を公式付与。
- 国家実現(Jordan WGS84)とグローバルフレームの間に、高精度かつ時間依存(エポック/速度)も考慮した公式変換モデル(7パラ+速度、または格子+速度)を確立・公開。
- Cassini→JTM の公式変換を完了し、グローバルとの変換チェーンを明確化(Cassini → Jordan WGS84 → JTM/UTM および Global WGS84/ITRF への往還)。
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まとめ
- 「各測地成果にグローバルWGS84座標を付与する」という理解は概ね正しい。ただし厳密にはエポック・速度・公式変換モデルまで含めて標準化されることが肝要。
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実務的には
- 近年のWGS84実現はITRFに数cmで整合しているため、PPP/RTX/ATLAS/IGS系の文脈ではほぼ同義として扱える場面が多い。
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ただし厳密には
- WGS84はGPS運用フレームとして歴史的に複数実現(G873, G1150, G1674, G1762 等)があり、各時代のITRFに整合するよう更新されてきたが、名称はWGS84のまま。
- ITRFは再定義ごと(ITRF2008/2014/2020 等)にエポック・速度が伴う動的フレーム。エポック不一致や速度補正の扱いによっては数cm~decimeterの差が生じ得る。
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結論
- 用語として「WGS84≒ITRF(近年実現)」で差し支えない場面は多いが、成果交換や公共測量では「どの実現/エポックか」を明示・一致させるのが必須。
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国内公共案件
- RTK/ネットワーク(Jordan WGS84 実現)を用い、該当ゾーンの公式7パラ(または格子)を設定。JTMの投影定数を正確に適用。
- 成果のメタデータにエポック・変換パラメータの出典(DLS/RJGC)を明記し、既知点で現場検証。
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国際案件/PPP(RTX/ATLAS)
- 機器は Global WGS84/ITRF を出力。そこから Jordan WGS84 実現・JTM/UTM へ「ゾーン設定(地域別7パラ/格子)」で変換、または現場校正で整合。
- 基準の混在(国内VRSのJordan WGS84とPPPのGlobal WGS84の混用)は避ける。やむを得ず混在する場合は「同一点の両座標」「公式変換・エポック」を必ず添付。
- 「WGS84だから同じ」と考え、グローバルWGS84(ITRF)からそのままJTMへ投影(国家実現の7パラ未適用)→ 数十cmのズレ。
- UTMとJTMを投影だけで切り替え、基準フレーム(Jordan WGS84 vs Global WGS84)を揃えない。
- RTX/ATLASの座標を、そのまま国内公共座標に混合(ゾーン設定未適用)。
- 本稿は一般的な測地・GNSSの原理に基づく整理です。JTMの正確な投影定数(中央経線・縮尺・偽座標)、ゾーン別7パラメータ、エポック・速度モデル等の公式情報は、DLS/RJGCや国内VRSネットワーク運用者の最新資料をご確認ください。公式の格子補正(NTv2 等)が提供されている場合は格子を優先するのが最も高精度です。
- 高精度測地ではITRFが技術的に基準となる一方、地図・測位の実務ではWGS84表記が通俗的で、行政・防衛ユーザにとって分かりやすい。